小林 卓也

 

2015 年10 月、マラリアの治療薬アルテミシニンを発見した業績が評価され、中国の屠呦呦氏にノーベル生理学医学賞が授与されることとなりました。

 

1967 年、ベトナム戦争のさなかマラリアの流行に苦しんでいた北ベトナム軍から要請を受けた同盟国中国は、新薬の開発プロジェクトを立ち上げました。プロジェクトに参加した中国医学の専門家である屠氏らのグループは200 以上の薬草を試し、青蒿と呼ばれる植物から得た抽出物が効果を持つことを見出しました。

 

しかし当初、この抽出物からはあまりに弱い効果しか得られませんでした。実は彼女らは一般的な熱水による抽出を行っていたのですが、高温によりアルテミシニンがダメージを受けてしまっていたのです。屠氏は、約1600 年前の文献では、青蒿を煎じるのではなく、「水に浸した絞り汁を服用する」とされているのを読み、この事実に思い当たったそうです。そこで低温下での抽出法に切り替えたところ、十分な効果のある抽出物を得ることができました。

 

それでもまだ大きな問題がありました。毒性の強さです。従来のマラリア治療薬も強い副作用を持つことが問題となっていました。しかし1971 年、屠氏らは抽出物を毒性の強い酸性の部分と、無毒で治療効果のある中性の部分に分離することに成功しました。

 

その後マラリア治療の効果を持つ成分の正体である化合物が特定され、アルテミシニンと名付けられました。1977 年、この成果は中国の医学誌に「抗マラリア剤研究グループ」の論文として掲載され、さらに1981 年に北京で開かれたマラリア対策の国際会議で屠氏が発表を行ったことを機に世界中に広まり、多くの人々の命を救うこととなりました。